エリアの持ち家率・平均世帯年収の調べ方 — 公的データでどこまでわかるか
「持ち家が多いエリアを狙いたい」「所得水準の高い地域から回りたい」——リフォーム、住宅設備、保険、不動産といった商材では、こうしたエリア選びの相談が出てきます。ただ実際に調べようとすると、持ち家率はすんなり出るのに、世帯年収だけがどうにも出てこないという壁に当たります。
これは探し方の問題ではなく、データの存在そのものが違うためです。この記事では、何が公的統計に実測値として存在し、何が存在しないのかを分けて整理します。
結論:この2つは、性質がまったく違う
| 項目 | 公的統計 | 取れる粒度 |
|---|---|---|
| 持ち家率・共同住宅率 | あり(国勢調査・実測) | 町丁目単位 |
| 世帯の構成・単身率・子育て世帯率 | あり(国勢調査・実測) | 町丁目単位 |
| 平均世帯年収 | なし | —(推計に頼るしかない) |
| 納税者1人あたり課税対象所得 | あり(課税状況調・実測) | 市区町村単位 |
順に見ていきます。
持ち家率は、町丁目単位で無料で取れる
総務省統計局の国勢調査には、小地域集計という町丁目単位の集計があり、この中に「住宅の所有の関係」の表があります。ここで気をつけたいのが、粒度によって取れる区分の細かさが違うという点です。
| 粒度 | 取れる区分 |
|---|---|
| 市区町村単位 | 持ち家/公営の借家/都市再生機構(UR)・公社の借家/民営借家/給与住宅 の内訳まで |
| 町丁目単位(小地域) | 住宅に住む一般世帯/持ち家/民営借家 の3つ |
つまり「この町丁目の給与住宅(社宅)の割合」までは取れません。町丁目で持ち家率を出す場合は、持ち家の世帯数 ÷ 住宅に住む一般世帯数という形になります。分母が「一般世帯数」ではなく「住宅に住む一般世帯数」である点は、他の統計と突き合わせるときに効いてきます。
同じく「住宅の建て方」の表からは、一戸建てか共同住宅かの比率が取れます(町丁目単位では主世帯・一戸建・共同住宅)。いずれもe-Statから無料でダウンロードでき、出典を明記すれば商用利用も可能です。
実際にやるときの手数
データがあることと、すぐ使えることは別問題です。実務では次の工程が発生します。
- e-Statで対象の表(所有関係・建て方)を都道府県ごとにダウンロード
- 境界データ(町丁目のポリゴン)を別途ダウンロード
- 調べたい地点を緯度経度に変換し、半径の円と町丁目を重ね合わせる
- 円からはみ出た町丁目を面積で按分して合計する
3と4は地図データを扱う処理になるため、Excelだけでは完結しにくい部分です。市区町村単位でよければ1と表計算だけで済みますが、「駅から半径1km」のような範囲で見たい場合はこの工程が必要になります。
平均世帯年収の公的統計は、存在しない
ここが、この記事で最も伝えたい部分です。町丁目単位はもちろん、市区町村単位でも「平均世帯年収」という公的統計は存在しません。国勢調査は所得を調査項目に含んでいないためです。
したがって、商圏分析サービスの画面に平均世帯年収が表示されている場合、その数字は各社が独自の方法で推計したものです。推計が悪いという話ではなく、実測値と同じ確度のものとして扱うと判断を誤りかねない、という性質の違いだと筆者は捉えています。
公的統計で最も近いもの:課税対象所得
所得水準の代理指標として使えるのが、総務省「市町村税課税状況等の調」に収録されている課税対象所得と納税義務者数です。前者を後者で割ると「納税者1人あたりの課税対象所得」が出ます。「統計でみる市区町村のすがた」にも収録されており、無料で参照できます。
ただし、使うときに押さえておきたい制約が3つあります。
| 制約 | 内容 |
|---|---|
| 粒度 | 市区町村単位。町丁目や半径1kmには落とせない |
| 単位 | 「世帯あたり」ではなく「納税者1人あたり」。共働き世帯が多い地域では世帯年収との差が大きくなる |
| 対象 | 課税対象所得なので、納税義務のない層は分母にも分子にも入らない |
それでも、市区町村間の相対的な所得水準の差を見る用途では、実測値として使える貴重なデータです。
タスデータでの扱い方(算出ロジックの開示)
参考までに、当サービスの商圏レポートでこの2項目をどう扱っているかを書いておきます。推計を出す以上、方法を隠さない方が使う側が判断しやすいと考えているためです。
- 持ち家率・共同住宅率:国勢調査2020年の小地域集計(住宅の所有関係・建て方)を、指定した半径の円で面積按分。実測ベースです
- 平均世帯年収:2019年全国家計構造調査の「1世帯当たり年間収入」(都道府県・総世帯)に、市区町村の所得水準比(納税者1人あたり課税対象所得の県平均比)を掛けた推計値。粒度は市区町村単位
- 平均世帯貯蓄:同調査の「金融資産残高」の都道府県平均を、補正せずそのまま表示。粒度は都道府県単位
レポートの画面上でも、項目ごとに出典と粒度の一覧を出しています。「これは町丁目の実測、これは市区町村の推計」と分けて見えるようにするためです。存在しないデータを、存在するかのように細かい粒度で出すことはしない、という方針をとっています。
住所を1つ入れると、その周辺の持ち家率・共同住宅率・世帯の構成・平均世帯年収(推計)まで無料で確認できます。
すべて出典と粒度つき。人口・年齢構成・2050年の将来推計・最寄り駅・周辺施設の件数も同じ1枚に載ります。
使うときの前提として
持ち家率にせよ所得水準にせよ、出てくるのはそのエリアの平均です。持ち家率70%のエリアにも借家の世帯は3割いますし、所得水準の高い市区町村にもさまざまな世帯があります。エリアの優先順位づけの材料にはなっても、個別の世帯の状況を示すものではない、という点は前提として置いておく必要があります。
営業リストのエリア分けやポスティング先の絞り込みのように、限られた回数をどこに使うかを決める場面で効いてくるデータだ、という捉え方が実態に合っているように思います。