出店判断に将来人口の予測を使う — 2050年まで無料で調べる方法
「この場所、10年後もお客さんがいるのか」——出店や開業の候補地を検討していて、この不安に行き当たった方は多いはずです。店舗の賃貸借契約や設備投資の回収は5年・10年の単位で考えるのに、手元にあるのは「今」の人口だけ。将来の人口はどこで調べられるのか、という疑問です。
結論からいうと、将来人口の予測は公的な推計データとして無料で公開されています。この記事では、データの入手先と粒度の違い、商圏単位で見ようとしたときにぶつかる壁、そして数字の読み方として論点になりやすい点を整理します。
結論:無料で使える将来人口データは2系統ある
| データ | 粒度 | 推計の範囲 |
|---|---|---|
| 社人研「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」 | 市区町村単位 | 2050年まで・5年刻み |
| 国土数値情報「1kmメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)」 | 1km四方のメッシュ単位 | 2070年まで・5年刻み |
どちらも2020年の国勢調査を基にした推計で、総人口だけでなく男女別・5歳階級別の年齢構成まで収録されています。出典を明記すれば商用利用も可能です。順に見ていきます。
市区町村単位でよければ、社人研の推計で足りる
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が公表している「日本の地域別将来推計人口」は、全国の市区町村ごとに2050年までの人口を5年刻みで推計したものです。候補地の市区町村名で検索すれば、Excelの表として無料でダウンロードできます。地図で眺めたい場合は、内閣府のRESAS(地域経済分析システム)でも将来人口を表示できます。
全体の傾向としては、かなりはっきりした数字が出ています。令和5年推計では、2050年の総人口は東京都を除く46道府県で2020年を下回り、秋田県など11県では3割以上減少します。市区町村単位では約95%で人口が減少し、約6割では3割以上減るという推計です。
つまり出店判断の文脈では、「減るかどうか」を調べてもほとんどの場所で答えは「減る」です。判断材料になるのは減り方の差——同じ県内でも、2050年に8割残る市と5割まで減る町がある——のほうだ、という見方ができます。
商圏単位で見たいときの壁:市区町村は広すぎる
ただ、実際の商圏は「市」ではありません。徒歩や車で来られる半径500m〜3kmの範囲です。同じ市の中でも、駅前と郊外では人口の先行きがまったく違うことがあり、市の平均値では候補地の判断材料として粗すぎる場面が出てきます。
ここで使えるのが、国土交通省の国土数値情報として公開されている「1kmメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)」です。全国を1km四方の網の目に区切り、それぞれの区画について2070年までの人口を5年刻みで推計したデータで、ライセンスはCC BY 4.0(出典表示のみで商用利用可)。より細かい250m・500mメッシュ版もあります。
実際にやるときの手数
データが無料で存在することと、すぐ使えることは別問題です。メッシュデータはGIS形式(シェープファイル等)で提供されるため、商圏単位の数字にするには次の工程が必要になります。
- 国土数値情報から対象地域のメッシュデータをダウンロード
- 候補地の住所を緯度経度に変換する
- 候補地を中心に半径の円を描き、メッシュと重ね合わせる
- 円からはみ出るメッシュを面積で按分して合計する
2〜4は地図データを扱う処理で、Excelだけでは完結しにくい部分です。QGISなどの無料GISソフトで実施している例もありますが、候補地が1〜2件で慣れている場合を除くと、ここが最初のつまずきどころになりやすいようです。
数字の読み方:総人口より「年齢構成の変化」が効く場面が多い
将来人口を出店判断に使うとき、総人口の増減だけを見ると判断を誤ることがあります。推計データには5歳階級別の内訳があるので、自分の業態のお客さんにあたる年齢層がどう変わるかまで見る、という使い方が実態に合っています。
- 学習塾・小児科・子ども向け業態 → 0〜14歳人口の推移
- 介護・デイサービス・在宅医療 → 65歳以上・75歳以上人口の推移(総人口が減っても増えるエリアがある)
- 飲食・小売・美容 → 生産年齢(15〜64歳)と昼夜の人の流れ
とくに高齢者向けの業態では、総人口が2割減るエリアで75歳以上だけは増え続ける、という組み合わせが珍しくありません。総数の増減と客層の増減は別物として見る必要があります。
タスデータでの扱い方(算出ロジックの開示)
参考までに、当サービスの商圏レポートで将来人口をどう扱っているかを書いておきます。
- 2050年の周辺人口:国土数値情報「1kmメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)」を面積按分し、2025年比の増減とあわせて表示
- 年齢構成:国勢調査2020年の実測(左)と2050年の推計(右)を円グラフで並べ、客層の変化がそのまま読める形にしています
- レポート上では項目ごとに出典と粒度を明記し、実測値(国勢調査)と推計値(将来人口)を区別して表示します
住所を1つ入れると、その商圏の現在の人口・年齢構成と、2050年の将来推計人口まで無料で確認できます。
すべて出典と粒度つき。最寄り駅・周辺施設の件数・持ち家率も同じ1枚に載ります。
使うときの前提として
将来人口は、候補地を絞り込む場面——複数の候補のうち、どこなら10年後も商圏が持ちこたえるか——で効いてくるデータです。逆に、単独の候補地について出す・出さないを将来人口だけで決められるものではなく、賃料・競合・視認性といった他の条件と並べる材料の1つ、という位置づけが実態に合っているように思います。