高齢化率のデータで営業エリアを絞る — 無料で町丁目まで調べる
「高齢者の多いエリアから回りたい」——介護サービス、医療機器、リフォーム、シニア向け商材の営業リストを作る場面で、この条件から入る方は多いはずです。ところが実際に調べ始めると、見つかるのは市区町村単位の高齢化率ばかりで、営業で回りたい町丁目単位の数字にたどり着かない、という壁にぶつかります。
結論からいうと、町丁目やメッシュ単位の高齢者データは公的統計として無料で公開されています。この記事では、その入手先と、その前に踏みやすい2つの落とし穴——「率」で選ぶこと、「65歳以上」でひとくくりにすること——を整理します。
まず前提:全国の高齢化率と、この先の見通し
高齢化率は、65歳以上人口が総人口に占める割合を指します。総務省統計局の人口推計では、2026年7月1日現在(概算値)の65歳以上人口は3,622万人・総人口の29.5%。直近の確定値である2026年2月1日現在では3,619万8千人・29.4%です。2020年国勢調査での値は28.6%でした。
先行きについては、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計・出生中位/死亡中位)」が次の数字を示しています。
| 年 | 総人口 | 65歳以上人口 | 高齢化率 |
|---|---|---|---|
| 2037年 | 1億1,515万人 | 3,837万人 | 33.3% |
| 2050年 | 1億469万人 | 3,888万人 | 37.1% |
| 2070年 | 8,700万人 | 3,367万人 | 38.7% |
ここで見落とされやすいのが、65歳以上人口そのものは2043年の3,953万人でピークを迎え、その後は減っていくという点です。それでも高齢化率が上がり続けるのは、分母である総人口のほうがより速く減るためです。つまり中長期では、「高齢化率が上がる」ことと「高齢者が増える」ことは別々に動きます。営業エリアの話で率と実数を混同しやすいのは、この構造が背景にあります。
落とし穴1:「率」で選ぶと、市場規模を読み違える
高齢化率は割合です。人数ではありません。この差がいちばんはっきり出るのが都道府県の比較で、令和8年版高齢社会白書の都道府県別データを並べると次のようになります。
| 都道府県 | 高齢化率 | 65歳以上人口 | 75歳以上人口 |
|---|---|---|---|
| 秋田県(率が全国最高) | 39.5% | 約35万人 | 約20万人 |
| 東京都(率が全国最低) | 22.7% | 約322万人 | 約188万人 |
高齢化率が全国で最も低い東京都の65歳以上人口は、最も高い秋田県の約9倍です。訪問営業の件数、チラシの配布部数、拠点あたりの見込み顧客数といった人数が効く施策では、率で絞ると答えが反転します。
使い分けとしては、次のような整理ができます。
- 実数(65歳以上人口)が効く場面:訪問件数・配布部数・拠点の商圏設計など、母数がそのまま成果につながるもの
- 率(高齢化率)が効く場面:チラシの反応率やDMの当たり率など、母集団あたりの濃さを見たいとき。あるいは同じ人口規模のエリアを比べるとき
なお白書は、今後の高齢化について「大都市圏を含めて全国的な広がりを見る」としており、東京都の高齢化率も2050年には29.6%に上がる推計です。率で見て「都市部は対象外」と切ってしまう前に、実数を並べてみる価値はありそうです。
落とし穴2:「65歳以上」はひとくくりにできない
もうひとつ、指標の粒度の問題があります。介護関連の商材では、65歳以上という括りが実態と大きくずれます。厚生労働省の資料に載っている年齢階級別の要介護(要支援を含む)認定率を見ると、その落差がはっきりします。
| 年齢階級 | 要介護(要支援)認定率 |
|---|---|
| 65〜69歳 | 2.8% |
| 70〜74歳 | 5.7% |
| 75〜79歳 | 11.3% |
| 80〜84歳 | 25.6% |
| 85〜89歳 | 47.7% |
| 90歳以上 | 73.0% |
まとめると、65〜74歳では4.3%、75歳以上では31.3%。約7倍の開きがあり、認定者の約9割が75歳以上です(第1号被保険者3,585万人に対し認定者681万人のうち610万人が75歳以上、令和4年度末)。全国の認定率は第1号被保険者の19.4%(令和6年3月末現在、令和5年度介護保険事業状況報告)です。
この構造からすると、介護・在宅医療系の商材で見るべき指標は65歳以上人口ではなく75歳以上人口、さらに言えば85歳以上人口だ、という整理ができます。一方で、旅行・住宅リフォーム・資産運用のように元気な年代が主な顧客になる商材では、むしろ65〜74歳の層を見るほうが合います。「高齢者向け」とひとことで言っても、見るべき年齢帯は商材ごとに違うということです。
無料で細かい単位まで調べる方法
本題の入手先です。粒度ごとに、公的な無料データが用意されています。
| 粒度 | データ | 取れる高齢者の項目 |
|---|---|---|
| 市区町村 | 総務省統計局「人口推計」/高齢社会白書 | 65歳以上・75歳以上人口、高齢化率 |
| 町丁・字 | 国勢調査「小地域集計」(e-Stat) | 男女・年齢5歳階級別人口。65歳以上・75歳以上の括りも収録 |
| 500m/1kmメッシュ | 国勢調査のメッシュ統計(e-Stat 統計地理情報システム) | 65歳以上・75歳以上・85歳以上人口に加え、高齢単身世帯数・高齢夫婦世帯数 |
| 1kmメッシュ(将来) | 国土数値情報「1kmメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)」 | 65歳以上・75歳以上・80歳以上の人口と比率を2025〜2070年の5年ごと |
町丁・字の単位まで下りられるのが国勢調査の小地域集計で、e-Statから都道府県別にCSV・Excel形式で無料ダウンロードできます。営業エリアを「◯◯市△△町3丁目」の粒度で切りたい場合は、ここが出発点になります。ただし5歳階級は70〜74歳で打ち止めで、それより上は「75歳以上」の括りになるため、85歳以上を小地域単位で取ることはできません。
メッシュ統計のほうは行政区画に縛られないため、市境をまたぐ営業エリアを扱うときに向いています。この単位で高齢単身世帯数・高齢夫婦世帯数まで取れるのは見落とされがちな点で、見守りサービスや配食、緊急通報のように「一人暮らしかどうか」が効く商材では、高齢化率より直接的な指標になります。
地図上で眺めたい場合は、e-StatのjSTAT MAPや、RESAS(地域経済分析システム)の人口マップが使えます。RESASは旧システムが2025年3月6日で運用を終了し、翌7日から新システムに移行しましたが、サービス自体は継続しています(人口構成分析・将来人口推計分析・地域人口メッシュ分析を収録)。
実際にやるときの手数
データが無料で存在することと、営業リストに落とせることは別の話です。「自社の拠点から半径2km圏の75歳以上人口」を出そうとすると、次の工程が入ってきます。
- 該当地域の小地域またはメッシュのデータをダウンロードする
- 拠点や顧客の住所を緯度経度に変換する
- 拠点を中心に半径の円を描き、小地域・メッシュの区画と重ね合わせる
- 円からはみ出る区画を面積で按分して合計する
2〜4は地図データの処理で、Excelだけでは完結しにくい部分です。拠点が1〜2か所で、QGISなどの無料GISソフトに慣れているなら手作業でも足りますが、支店ごと・候補地ごとに何十件も出すとなると、ここが詰まりどころになりやすいようです。jSTAT MAPでつまずく箇所も同じ構造の話です。
タスデータでの扱い方(算出ロジックの開示)
参考までに、当サービスで高齢者データをどう扱っているかを書いておきます。
- 商圏レポート(無料):住所を1つ入れると、その周辺の人口・世帯数とあわせて高齢化率を表示します。全国値(2020年国勢調査の28.6%)を並べて出すので、そのエリアが全国平均に対して高いか低いかがその場で分かります。年齢構成も3区分と年齢帯別の内訳で表示します
- CSV付与:住所リストをアップロードすると、各行に「半径◯m高齢者人口(65歳以上)」「半径◯m高齢化率%」の列を追加して返します。拠点一覧・候補地一覧をそのまま処理できる形です
- 集計は国勢調査の実測値をもとに、町丁目・メッシュの区画を商圏の円で面積按分して算出しています。レポート上では項目ごとに出典と粒度を明記し、実測値と推計値を区別して表示します
住所を1つ入れると、その商圏の高齢化率・人口・年齢構成が無料で確認できます。
登録不要。出典と粒度つきで、最寄り駅や2050年の将来推計人口も同じ1枚に載ります。
指標の選び方として
ここまでを営業エリア選定の順序に置き直すと、次のような並びになります。高齢化率は入口の指標としては便利ですが、それ単独で優先順位が決まるものではなく、商材が想定する年齢帯の実数に翻訳してから使うほうが、実務の判断材料になりやすいという整理です。
- 商材の主な顧客が何歳以上かを決める(介護なら75歳以上・85歳以上、元気なシニア向けなら65〜74歳)
- その年齢帯の実数でエリアを並べる
- 反応率や単価を掛けて見込み額に直し、移動距離・既存拠点との重なりと突き合わせる
- 高齢化率は、同規模のエリアを比べるときの補助指標として使う
なお現行の人口推計値は2020年国勢調査を基準としたもので、統計局は2025年国勢調査の集計公表後に更新する予定としています。基準が切り替わると数字が動くため、資料に使うときは基準年をあわせて書いておくと後で困りにくくなります。