診療圏調査を自分でやる方法|受療率と年齢別人口から、1日の外来患者数を3地点で推計した
クリニックの開業場所を考えるときに行う診療圏調査は、開業支援の会社などに頼むこともできますが、公開されている統計を使えば、おおまかな数字は自分でも出せます。ここでは、診療圏調査で何を計算しているのかを整理し、厚生労働省の患者調査の受療率と、国勢調査の年齢別人口を使って、実際に3つの地点で1日の外来患者数を推計した結果を並べます。
先に結論を書くと、自分でやる診療圏調査は、「周りに住む人の数」×「年齢ごとの受診しやすさ」÷「近くの診療所の数」の3つをそろえる作業です。数字の作り方が分かっていれば、業者のレポートを読むときにも、どこを確かめればよいかが分かります。
論点1:診療圏調査で計算しているのは、3つの数字
ここでは、次の順で計算します。
| 順 | 数字 | 使う統計 |
|---|---|---|
| 1 | 開業予定地の周りに住む人の数(年齢別) | 国勢調査 |
| 2 | 年齢ごとに、1日に外来で受診する人の割合 | 患者調査の受療率 |
| 3 | 周りにある診療所の数 | 国土数値情報「医療機関」など |
1と2を掛けると、周りに住む人のうち1日に何人が外来で受診するかの推計になります。それを3の診療所の数で割ると、1つの診療所あたりの目安が出ます。
論点2:受療率は、年齢によって5倍ほど違う
受療率は、調査の日に医療機関を受診した患者の数(推計)を、人口10万人あたりで表した数です。厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況」によると、全国の外来の受療率は5,850でした。1日に、人口の約5.9%が外来で受診している計算です。
年齢で見ると、差が大きくなります。概況の表から、外来の受療率を抜き出しました。
| 年齢 | 外来の受療率 (人口10万対) |
|---|---|
| 15〜19歳 | 2,459 |
| 20〜24歳 | 2,367 |
| 40〜44歳 | 3,501 |
| 60〜64歳 | 6,320 |
| 70歳以上 | 10,742 |
| 80〜84歳 | 12,010 |
出典:厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況」表4「性・年齢階級別にみた受療率(人口10万対)」。病院と診療所の合計で、診療科は分けていない数字。
いちばん低い20〜24歳(2,367)と、いちばん高い80〜84歳(12,010)では、5倍ほどの差があります。同じ人口でも、年配の人が多い場所ほど、外来の患者は多くなります。人口だけで比べると、この違いが見えません。
論点3:3つの地点で、1日の外来患者数を推計した
タスデータで、性格の違う3つの地点を計算しました。三軒茶屋駅前(東京都世田谷区太子堂4丁目)、上尾駅前(埼玉県上尾市柏座1丁目)、若葉台駅前(東京都稲城市若葉台2丁目)です。半径1kmの年齢別人口に、年齢ごとの外来の受療率を掛けて足し合わせました。
| 半径1km | 三軒茶屋 | 上尾 | 若葉台 |
|---|---|---|---|
| 人口 | 76,424人 | 32,922人 | 18,118人 |
| 70歳以上の割合 | 15% | 20% | 12% |
| 1日の外来患者 (推計) | 3,850人 | 1,862人 | 907人 |
| 人口1,000人あたり | 50.4人 | 56.5人 | 50.1人 |
| 診療所の数 | 81 | 39 | 13 |
| 1診療所あたり (推計) | 48人 | 48人 | 70人 |
人口は2020年国勢調査の小地域(町丁目)集計の年齢別人口(年齢不詳を除く)を、円と重なる面積の割合で集計。受療率は令和5年患者調査の外来の値で、10歳きざみの人口に合わせて5歳きざみの値を平均して使った(70歳以上は表の再掲の値)。診療所の数は国土数値情報「医療機関データ」の診療所(歯科を除く)。2026年11月にタスデータで計算。
各駅の乗降客数の推移と、駅の周りに住む人は、駅のページ(三軒茶屋駅・上尾駅)で見られます。
上尾駅前は、人口1,000人あたりの外来患者が56.5人で、ほかの2地点(約50人)より1割ほど多くなりました。70歳以上の割合が20%と高いためです。
1つの診療所あたりで見ると、三軒茶屋と上尾はどちらも48人ほどで、ほぼ同じでした。三軒茶屋は人口が多い分、診療所も多いということです。若葉台は、人口は少ないものの診療所が13しかなく、1診療所あたり70人と、ほかの2地点の1.5倍になりました。人口の多さだけで選ぶと、このような場所は候補から漏れてしまいます。
論点4:自分でやる診療圏調査で、割り引いて読むところ
この計算は、公開されている統計でできる範囲の推計です。「診療圏調査はあてにならない」と言われることがありますが、どこに限界があるかを知っておくと、数字の読み方が変わります。
- 診療科が分かれていない:上の受療率は、病院と診療所、すべての診療科を合わせた数字です。内科、小児科、皮膚科など、開業する診療科の患者だけを見るには、傷病の分類ごとの受療率を使うなど、もう一段の絞り込みが要ります。
- 病院の外来も含まれる:近くに大きな病院があれば、外来の患者の一部はそちらへ行きます。診療所の数だけで割ると、1診療所あたりの数字は多めに出ます。
- 円の外から来る人がいる:国勢調査の人口は住んでいる場所で数えた人数です。駅前やオフィス街では、近くで働く人や、電車で通ってくる患者も来ます。
- 診療所の数は数年前の時点:国土数値情報の医療機関データは、作られた時点のものです。最近の開業や閉院は、自治体の情報や地図で確かめることになります。
業者の診療圏調査を受け取ったときも、どの範囲の人口を使ったか、受療率は全診療科か診療科別か、競合をどう数えたかを確かめると、数字の意味が読みやすくなります。
論点5:候補地が複数あるなら、同じ条件で並べる
診療圏調査の数字は、1か所だけを見ても多いのか少ないのか判断しにくいものです。上の3地点のように、候補地を同じ半径・同じ計算方法で並べると、違いがはっきりします。候補地が多い場合は、住所の一覧に年齢別の人口や診療所の数を列として付けて、表で比べる方法が手間を減らせます。
候補地の住所リストに、半径の年齢別人口・高齢化率・診療所や病院の数などの列を一括で付けられます。
これらは有料プランの項目です。データは国勢調査(2020年)・国土数値情報です。受療率を掛ける計算は、付けた列を使ってExcelでできます。
商圏レポート(無料・登録不要)では、住所1つについて半径の人口・世帯数・世帯の構成と最寄り駅を見られます。
まとめ
- 自分でやる診療圏調査は、周りに住む人の数(年齢別)、年齢ごとの受療率、近くの診療所の数の3つをそろえる作業です。
- 外来の受療率は年齢によって5倍ほど違い、70歳以上は10,742(人口10万対)でした。人口だけでなく年齢構成を見ると、患者の数の見込みが変わります。
- 3地点で推計すると、1診療所あたりの1日の外来患者は、三軒茶屋と上尾が約48人、若葉台が約70人でした。診療科、病院の外来、円の外から来る人の分は割り引いて読みます。