エリアマーケティングのやり方 — 中小企業が無料の公的データで始める手順
「うちもエリアマーケティングをやったほうがいいのでは」と社内で話が出た。あるいは、チラシや営業の反応がエリアによって明らかに違うことに気づいた——そういう場面で読まれることを想定した記事です。
エリアマーケティングというと大企業の専用ツール(初期費用数十万円〜)の話に見えますが、材料の大半は無料で手に入ります。1つは国が無料公開している統計、もう1つは自社にしかない顧客リストです。以下、中小企業が自力でやる場合の手順の順番に沿って、どこまでが無料で届く範囲かを並べていきます。
エリアマーケティングとは、結局なにをすることか
言葉の定義はいろいろありますが、実務に落とすと「地域ごとの実態に合わせて、どこに・誰に・どう売るかを変えること」に集約される、と筆者は捉えています。中小企業の場合、答えるべき問いは次の3つに絞られることが多いようです。
- いまのお客は、どこから来ているのか(現状の把握)
- 攻めたいエリアには、どんな人が住んでいるのか(エリアの中身)
- 次にどのエリアを優先するのか(優先順位)
この3つなら、大がかりなツールがなくても順番に確かめていけます。
手順1:自社の顧客リストを地図に落とす
最初の材料は、外部データではなく手元の顧客リストです。顧客の住所を地図にプロットすると、「どの地域に固まっているか」「川や幹線道路のどちら側に偏っているか」が一目で見えます。ここは自社にしかない独自データで、どんな高価な商圏データよりも自社の商売の実態を直接映している、という見方ができます。
やり方は顧客リストを無料で地図にプロットする方法で整理しています。件数が少なければGoogleマイマップなどの無料手段で足ります。
手順2:エリアの「人の中身」を公的統計で見る
次に、攻めたいエリア(あるいは客が多いエリア)にどんな人が住んでいるかを数字で見ます。元データは総務省統計局の国勢調査で、町丁目単位の小地域集計が無料で公開されています。総人口だけでなく、商売の前提に直結する内訳が取れます。
| 見るもの | 読み取れること(一例) |
|---|---|
| 年齢構成・高齢化率 | 客層の重心。介護・医療・学習塾などの需要の厚み |
| 世帯の構成(単独/夫婦と子供 など) | 単身向けかファミリー向けか。持ち帰り需要かまとめ買い需要か |
| 住宅の所有関係(持ち家率) | リフォーム・外構・住宅設備など持ち家前提の商材の見込み |
| 建て方(一戸建てか共同住宅か) | ポスティングのしやすさ、駐車場の有無の傾向 |
参照の入口はe-Stat(政府統計の総合窓口)か、地図上で円を描いて集計できる統計GIS「jSTAT MAP」です。いずれも無料で、jSTAT MAPは無料の利用登録をするとPDF・Excel形式のレポート出力もできます。
手順3:「客が多い町」と似たエリアを、次の候補にする
手順1と手順2を重ねると、優先順位の付け方が見えてきます。既存顧客が多い町丁目の属性(高齢化率・持ち家率・世帯構成など)を手順2の統計で確かめ、同じような属性を持つ、まだ攻めていないエリアを次の候補に挙げる、という考え方です。
たとえば「持ち家率が高く、60代以上が厚い町で成約が多い」と分かれば、同じ条件の町を統計側から探せます。感覚では「駅の反対側は縁がない」と思っていたエリアが、数字の上では既存の得意エリアとそっくり、ということもあります。チラシの部数をエリアの世帯数から決める方法はポスティングエリアの世帯数の調べ方に分けて書いています。
手順4:無料ツールでどこまで届くか
ここまでの手順は、次の無料ツールの組み合わせで実行できます。
- jSTAT MAP:地図上で円やエリアを指定して国勢調査を集計できる統計GIS。無料(つまずきポイントの整理)
- e-Stat:統計表そのものをダウンロードする入口。町丁目単位まで無料(ダウンロード手順)
- RESAS(地域経済分析システム):経済産業省などが提供する無料の分析サイト。登録不要で、市区町村単位の産業構造・人の流れなどをグラフで見られます。2025年3月に新システムへ移行し、動作が軽くなりました
正直に書くと、1〜2エリアを一度確かめるだけなら、この無料の組み合わせで十分です。外注や有料ツールの検討は、そのあとで判断しても遅くない、という順番の整理ができます。
自分でやる方法の限界
限界もはっきりしています。エリアの数と顧客リストの件数が増えると、手作業が急に破綻します。
- エリアが増える:5エリアを同じ条件で比べるには、同じ集計を5回繰り返して表をそろえる工程が必要になります
- リストが増える:数百件の顧客住所を地図に落とすには住所を緯度経度に変換する工程が挟まり、表記ゆれの補正も必要になります(一括変換の現実解)
- 更新がある:リストは毎月増えるので、一度作った地図や集計を作り直す運用が続きます
エリアマーケティングは一度きりの調査ではなく繰り返す運用なので、この「毎回の手間」が続けられるかどうかが、無料でやり切れるかの分かれ目だと感じています。
住所を1つ入れると、そのエリアの商圏レポートを無料で作ります。
人口・世帯数・年齢構成・世帯の構成・持ち家率・2050年の年齢構成・最寄り駅・周辺施設の件数まで、出典と粒度つきで1枚に。国勢調査など公的データベースです。
顧客リスト全体に商圏情報や最寄り駅を一括で付ける場合は、CSVアップロード(無料枠あり)が向いています。
まとめ
中小企業のエリアマーケティングは、「顧客リストを地図に落とす」「エリアの中身を国勢調査で見る」「似たエリアを次の候補にする」の3点セットで始められます。材料は自社リストと無料の公的統計でそろい、専用ツールが必要になるのは、エリアと件数が増えて手作業が回らなくなってからで足りる、という整理ができます。
大企業のような網羅的な分析でなくても、「なんとなく配っていたチラシのエリアを、世帯数と持ち家率で選び直す」だけでも、エリアマーケティングの実質は始まっている、と筆者は考えています。